『あしながおじさん』とバラ、本当の贈り物~Daddy long legsより

始めに

アメリカで1912年に出版された『あしながおじさん』は、ジーン・ウエブスター(36歳)の作品です。冒頭の運命の日の出来事以外は、孤児院で育ったジュディが、あしながおじさんに送った手紙だけで構成されています。ジュディの手紙は、軽妙な文章とイラストで、大学での出来事・友人の話・孤児院の悲しい思い出・農園での楽しい生活などが、生き生きと綴られています。ジュデイの言葉で語られるため、物語を何度も読み返し、描かれていないジュディ以外の人の心を想像します。
『あしながおじさん』は、ミュージカルでも上演されています。特に印象的なシーンでドラマティックに描かれている、バラの花束。少女の心を、一瞬で幸福に変えた花束は、どのようなものだったのでしょう。

生まれて初めての本当の贈り物

ジュディが「生まれて初めて受け取った本当の贈り物」は、ピンクのつぼみのバラの花束でした。
親しげな手紙をひっきりなしに送ってくる孤児から、事務的で辛辣な手紙が届いてから一週間。病床で書いた次の手紙が届き、その理由を知ったあしながおじさんは、入院している孤児にお見舞いを贈りました。ピンクのつぼみのバラの花束です。バラは色により花言葉が異なりますが、ピンクは「上品」。病床の孤児を思いやり、まだ香りが強くないつぼみのバラを選んだのでしょうか。さみしくてみじめな思いを抱え、ひとり寝ている孤児を慰めようと、明るいピンクのバラを選んだのでしょうか。一年生の孤児が、友達の待つ大学に戻るまでは寂しい思いをしないようにと、日持ちが良いバラを選んだのでしょうか。生まれて初めて、寄付ではない本当の贈り物を受け取ったジュディは、うれしさで泣き伏します。自分の事を案じてくれる人がいる事を知り、元気を取り戻します。そして、持ち前のユーモアも。

伝えたい思いを美しい花に託して贈るとき、何を大切にされますか。
相手の方の好み・好きな色・好きな花・花言葉・飾る場所・その日の衣装・目的・長く咲く花・届けたい思い・いつ・どこへ・誰のために。
あしながおじさんの選んだ「ピンクのつぼみのバラ」は、ジュディの心にしっかりと刻まれ、深い信頼へとつながる最高の贈り物となりました。

五月の校庭と美しい性質

大学生活に慣れてきたジュディ。天国のように美しい五月の校庭。「すべての灌木は花をつけ、木々は若々しい緑にもえています。松の古木さえもいきいきと新しく見えます。芝生には黄色いタンポポ…が点々としています。」それを見ているジュディは、休暇を初めて農園で過ごすことになり、誰よりも楽しくのびのびしています。「寒さや霜にあえばしおれるでしょうが、太陽が輝けばぐんぐん伸びていきます。」ジュディは、美しい性質を植物に例えて、あしながおじさんに手紙を書いています。五月の校庭を案内した友人の叔父様から、届いたのはチョコレートの箱。月末でお小遣いがなくなっている彼女らを喜ばせたかったのでしょうか。

五月は木々が美しい季節です。冬越え出来ず枯れてしまったのでは、と思っていた枝に新芽を見つけたときの喜び。小さな芽の様子は、毎日でも見守りたくなります。行くあてのない孤児を大学に進学させ、義務として月に一回手紙を書く事、と決めたあしながおじさん。月に何度も届く楽しい手紙は、予想以上だったのかもしれません。ちょっと様子をのぞいてみようか、いたずらっ子のように、軽い気持ちで大学を訪ねてみたくなるかもしれません。

五月の公園
新緑の庭

スミレとスズランの大きな花束

大学でシェイクスピアを勉強したジュディ。タイミング良く、友人の叔父様から、ニューヨークの劇場に誘われ、友人と共に「ハムレット」を観劇します。目もくらむような街、ぜいたくな店、美しいものが並ぶショーウインドー、孤児院の粗末な食堂と比べ言葉にならないような店での食事。毎晩夢に出てくるほど感激した舞台の不思議な世界。驚きの二日間を過ごして、大学に戻るジュディ達に叔父様から贈られたのは、スミレとスズランの大きな花束でした。どちらも清楚な印象の花です。スミレの花言葉は「謙虚、誠実」、スズランは「純粋、再び幸せが訪れる」。
スミレとスズランは、控えめながらどこか気高さを感じます。優しく凛とした美しさ。大きな花束。ニューヨークから、自分の部屋へもどるジュディの心を想像します。
クリスマスをきっかけに、友人サリーのハンサムなお兄さんが、手紙にたびたび登場します。サリーの家族と、ダンスパーティを楽しむジュディ。校旗を贈られて、自分を覚えてくれていたことを喜ぶジュディ。
大学で学び作家を目指すジュディを見守るあしながおじさん。手紙には返事を書かないという約束でした。秘書を通じて、何故か、あしながおじさんはジュディの行動に、指示や意見を出すようになります。

花の美術館

卒業式のバラの花束

卒業式の日、ジュディには三つのバラの花束が届きました。式に抱えていたのは、あしながおじさんから贈られたバラのつぼみの花束でした。信頼する、たった一人の家族のようで、最後まで名前もわからない遠い人。それでも卒業式に選んだのは、一生変わらぬ感謝の思いからでした。式に来てもらえなかったあしながおじさんの代わりに、喜びを共にしたかったのでしょうか。

それにしても、なぜ、三人ともバラを選んだのでしょう。バラについて、調べてみました。

バラの歴史

バラは紀元前から栽培されていたようです。エジプトのクレオパトラ、フランスのマリー・アントワネットも熱烈なバラ愛好家でした。数々の名画にも登場し、詩の題材としても好まれてきました。19世紀初め、ナポレオンの皇妃ジョセフィーヌが、世界中からバラを収集するとともに改良や育苗をすすめ、大きな飛躍を遂げたそうです。交配による新品種作りが盛んになり、ヨーロッパのバラと中国のバラから生まれた「ハイブリッド・ティーローズ」は、切り花のバラに最も多い高芯剣弁咲きの始祖といわれています。
現在では、咲き方により11種類に分類されています。交配が激しく、新種が次々と誕生しています。品種数も多く、各色の濃淡が豊富にそろいます。形や色や香りまで、贈り手は自由に想いを込める事が出来ます。

国花としてのバラ

アメリカの国花はバラです。1985年、アメリカにおいて、バラを国花として宣言するよう大統領に求めた決議が上院で可決、翌年ロナルド・レーガン大統領がその法律に署名・公布、正式に国花となりました。

「化石の研究は、バラがアメリカにずっと存在していたことを明らかにしました。初代大統領ジョージ・ワシントンンはバラを育て、彼の母親にちなんで名づけられた品種は今も健在です。ホワイトハウスにも美しいバラ園があります。50州全てでバラは栽培されています。お祝いやパレードにはバラを飾ります。愛する人にバラを贈り、祭壇・聖堂・栄誉ある死者の最後の休息場所にも惜しみなくバラを飾ります。アメリカの人々は長い間、心の特別な場所にバラを置いてきました。」(「バラを認定する宣言5574抜粋」より引用)

バラを国花としている国は、他にも多くあります。色や品種の指定もありますが、以下の国で国の象徴としています。

ブルガリア・ルクセンブルク・エクアドル・イラク・イラン・オマーン・キルギス・サウジアラビア・アルジェリア・モロッコ・セントルシア

英国のシンボル、バラ

イギリスにおいても、バラは特別な花と言えます。バラはイングランドの国花であり、現在のエリザベス女王の紋章にも描かれています。その由来は、1455年から30年間、王位継承権をめぐり争った「ばら戦争」。ヨーク家とランカスター家の連合のしるしとして誕生した、赤バラと白バラが重なった紋章でした。

バラはたくさんの花弁が集まったマスフラワー、大きさや咲き方にも華やかさがあります。花びらは厚みや光沢があり、開花するとさらに大輪になります。古くから多くの人々に愛されてきたバラ。アメリカでは大切な人や特別な時に贈られる花でした。ジュディが大学を卒業する日。ジュディを大切に思う人たちは、迷わずバラを選んだのでしょう。

終わりに

『あしながおじさん』の結末は、思いもかけないものでした。原作とミュージカルとでは、ジュディの心の表現は、大きく異なっています。実は、この作品には後編があります。友人サリーが、ジュディや恋人や敵さんに書いた手紙で構成された『続あしながおじさん』。読者には何より気になる、ジュディのその後の様子を知る事が出来ます。むしろ、こちらの作品の方が好き、と言うファンの方も多いのではないでしょうか。ウエブスターはこの作品を書いた翌年、早産のため亡くなりました。

ピンクのつぼみのバラの花束。生涯、心に残る贈り物でした。

あしながおじさん
ポプラ社文庫『あしながおじさん』、新潮文庫『続あしながおじさん』

文中のミュージカル

『ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより』

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